偉そうな事を書いているかもしれませんが製造側からの忌憚のない意見だと知って頂ければ幸いです。私自身は10年ほどM菱電機の協力工場で生産管理から現場まで従事した経験がございます。その観点からの所感です。
結論から先に書きますと今後も加工賃は上昇傾向にあり、下がる事は無いでしょう。その理由を記載していきます。
直近で加工賃についてのお問い合わせが増えています。1枚いくらで出来ますか?と言うのが多いのですが、ロット枚数や仕様・生地の素材・小幅か広幅か・・加工賃を決める要素は多くあります。
全てが値上がりしている現在、国内で作るのも海外で作るのも差はありません。小ロットで発注したい場合は国内の方が良いまであります。
お問い合わせのほとんどは価格上昇前と同じ加工賃・もしくはそれ以下で出来る業者・工場を探されているのだと思います。上代は上げられない。生地やパーツの仕入価格は上昇・・となれば削れるところは限られてきます。
今まで加工賃の大きな上昇が無く、探せばそれなりに業者はあったと思います。それが可能だったのは縫製業界の外注・内職が支えていたからです。
コロナが明け、円安が進み生活様式が一気に変化しました。私共の周りでも廃業・閉業される工場・高齢化による内職さんの不足。今まで無限の時間をかけて出来ていた物が全て内製化されようとしています。
工場での加工賃は全て時間単位です。時間がかかればかかる程、加工賃が上昇します。内職はこの時間が全く換算されません。ここが加工賃の乖離を生む原因です。1枚当たりの単価は時間ベースで出される計算になります。
当事業所ですと小幅の生地は全て手作業の為、広幅より加工賃が高くなります。小幅の方が安いイメージがあるかも知れませんがむしろ逆転しています。機械を使った作業ができないからです。
難易度の高い作業は時間がかかりますので費用も上昇します。
内製化により今までは良く分からなかった本来の作業時間・費用が明らかになってきています。
製造側が工程を詰めて行くのではなく発注者側も作業工程・内容を詰めていく必要があります。
いかに製造側の無駄を減らせれるか。これが重要になってきます。
小幅で作っていた製品を広幅に・・生地を見直し加工のしやすい物に・・
製造側に立った着眼点からコストを削る作業が必要になります。これが出来て初めて加工賃の交渉が出来るようになるでしょう。ただこれは製造側は当たり前にやっている事ですのでこれによって安くなるという事はありません。時間の必要な物は必要だからです。
次に意識しなければならないのは数字に表れないコストです。特に間接部門のコストは意識しなければなりません。いわゆる「振り屋」的な業務をしている場合は普段考える事が少ないかもしれません。
具体的な例として、目的の加工賃で縫製出来る業者を探すとします(仮に1000円100枚とします)
1日目に2000円なら可能な業者が見つかりました。しかし単価が合わず他の業者を探します。
3日目に1500円で可能な業者が見つかりました。しかし単価が合いません。
5日かかっても見つからず納期に間に合わす為1500円で可能な業者に発注しました。
どの業種でも良くありそうな話ですが、ここで大事なのは仕事を発注するために5日の時間がかかっている事です。結果的には1500円の業者に発注せざるを得なくなりましたが、5日間かかった間接人員の費用が換算されているでしょうか。
目的は1000円×100=10万ですが結果的に1500円×100=15万となりました。
5万円余分な費用がかかってしまったと思われますが5日分の間接人員の費用は会社側からすると少なくても10万以上はかかっているでしょう。
加工賃を別にして10万以上の余分なコストが発生しています。仮に1日目に2000円で発注してもトータルでの費用に違いはありません。初日に決めていれば残りの4日間は別の業務が行え、越えた加工賃をペイ出来たかも知れません。
とは言ってもそれが出来れば楽ではないのは承知です。重要なのは目的の加工賃で仕事を出すのではなく、全体の流れを考える事が必要です。1日前に倒れるか、後ろに倒れるか。1日を取り戻すには2日分の費用がかかります。人が動くという事はコストがかかり出来るだけ無駄のない動きをすることで数字に表れにくい部分を抑えられるでしょう。今後はそのような動きが必要になると考えられます。