当事業所で二巾生地を扱う機会がありましたので広幅との違いを備忘録として、どのような点が違うのかを工場の視点からお伝えし出来ればと思います。
先に申し上げますと縫製・出来上がりに関しては二巾・三巾(広幅)で違いは全くありません。縫製にかかる時間コストはほぼ同じです。違うのは裁断方法です。小巾に関しましては背縫いが必要になりますが、完成する形としてはほぼ同じです。
・まず生地幅について何が違うのかご確認下さい・・・https://x.gd/o1fFV アイエス産業様HP
文章を引用させて頂きますが「価格は、小巾が一番安く、巾が広くなると高くなります。」
面積が広くなるので高くなるのは当然です。
次に「縫製工賃は生地によって変わります。小巾が一番安く、二巾、三巾と工賃が高くなります」と記載があります。
この部分に関しては正しくもあるし間違いでもあります。それは後述致します。
・こちらをご確認下さい・・・https://x.gd/ZNq8W
裁断方法は生地幅によって大きく変わります。二巾と広幅を比べると二巾の方が楽なのは間違いありません(簡単と言うでは無いですが)
では二巾と広幅で裁断時間にどれぐらいの差があるのか?と言いますと、1時間以内で収まります。この裁断時間と言うのは、生地に裁断図を書き込んでカットするまでの時間と考えて下さい。10枚裁断するのも100枚裁断するのもかかる時間はほぼ変わりません。
浴衣の裁断はパターンがほぼ決まっているので慣れてきますと差があまり出なくなります。
次に縫製の時間コストが同じなら裁断の早く終わる小巾や二巾が安くなるのでは?と考えれますが実際のところは全く違います。
何が違ってコストに差が出るのか?当事業所の場合では「小巾の方が加工賃が高くなり、広幅の方が加工賃が抑えられる」になります。
では何故前述に「縫製工賃は生地によって変わります。小巾が一番安く、二巾、三巾と工賃が高くなります」とあったのでしょうか。
ここでは。仮に小巾・二巾生地が安く入手出来るから価格が安くなる。と言う点は考えません。
考えらえる要因は大きく2つあります(勿論、他にあるとは思いますが)
・①外注・内職と内製化の違い
・②工場の設備・方法
が大きな要因だと考えらえます。
①外注・内職と内製化の違い
に関しては外注・内職に仕事を振る事によってコストが抑えらえる点です。国内で浴衣製造をしている企業は中々聞かないと思います。この手の仕事は現状、内職の方が1枚いくらの工賃で縫製をしたり、一線を退いた方が趣味や採算を目的としない目的でやっている場合が多いです。
時間がどれだけかかろうと1枚に支払う金額は同じです。という事は実際にどれだけの時間コストが必要なのか依頼側が把握出来ません。工賃ミスマッチの原因の一つです。
昨今、外注・内職で行っていた事が出来なくなりつつあります。そうなると内製化するしか方法が無いのですが、そこで初めて裁断にかかるコストが見えてくるようになり小巾・二巾の加工賃が高くなる理由が分かってきます。
内製化するという事は時間コストを真っ先に考えなければなりません。となればいかに時間をかけずに裁断から縫製を行えるか。が課題となってきます。では縫製の時間コストは広幅と同じであり裁断の時間もさほど変わらない・・どこで加工賃の差が出ているのか?という疑問が出てきます。そこが次の点になります。
②工場の設備・方法
こちらは実際に裁断する二巾生地です。



ここで重要なのは「裁断」とは切るだけの工程ではなく「延反~裁断」までの工程を意味します。通常、生地は丸く巻かれた状態で入荷します。小巾、二巾生地は畳まれた状態で入荷します。製造工程上、巻くことが出来ないのかは分かりませんが基本的にはこの形です。
生地を裁断するには延反機を使って必要な長さに生地を伸ばすのですが、畳まれた状態で延反しようとすると通常の方法では延反出来ずアタッチメントを付ける必要があります。


畳まれた状態の生地は丸巻きの生地とは違う点があり、耳が揃っていない、スムーズに生地が送れない。と言った違いがあります。
延反機には自動で耳を揃える機能がありますが、丸巻き状態の生地を基準に考えられているのであくまでも微調整するための機能です。上記画像の生地のように耳がランダムな場合はあまり効果を発揮できません。人力調整が必要です。
折りたたまれている生地はスムーズに生地が送れず、たわんだりズレる事が多々あります。
これは延反機では対応出来ない為人力調整が必要です。
サランラップやトイレットペーパーが折られた状態だと取り出しにくいのと同じです。
以上の点から折り畳まれた状態の生地を延反~裁断する際には延反機と並走して人力調整が必要になります。延反機を停止→稼働という作業が格段に増える為、丸巻きの生地と比べると手間がかかり2~3倍ぐらいの時間をかける必要があります。延反機を使わない方法もありますがもっと時間的なコストがかかるでしょう。
当事業所では延反台が12mほどありますので1回の裁断で全てのパーツを取り切ります。ですが延反台の長さによっては数回に分けて裁断する必要があるでしょう。
裁断には1枚裁ち・2枚裁ちと言う方法がありますが、2枚裁ちの方が遥かに用尺を短くできます。しかし2枚分を一度に裁つ為、その分長さが必要になります。その長さを延反出来る設備があるかどうかで裁断の方法も変わってくることになります。
仮にCADやCAMを使用し延反台が4mで1枚裁ちしか出来ないとしますと、二巾、2枚裁ちで1回で終わる裁断作業なら1枚裁ちだと同じ枚数を取るには4回裁断作業が必要になります。手裁断ですと400枚分近く、用尺1000m以上を一回で裁断する場合もあります。延反~裁断作業が大きく工数に関わってきます。内製化するにはあまりにも時間がかかる為に、外注や内職でしか行えなかったのだと推測できます。
結論としては「出来なくはないが、量産するとなると裁断に時間コストが大幅にかかる」と言う点になります。
この記事が何かの役に立てば幸いです。
https://www.youtube.com/shorts/XN-7Cpw6AZE
こちらに延反の様子をアップロードしています。短い動画はショート動画になる仕様の為、埋め込みすると縦長になり見難いのでURLを貼っております。